4.マルチメディア技術の30年先

 次に、今のマルチメディア技術の20年から30年先を見た場合、何が実現できるかという
ことについて話しをしておきたいと思います。
 今、マルチメディアの世界で言われているバーチャルリアリティというのは、ゲームソ
フトで使われているようなレベルの話だと思います。しかし、そうではなく最先端のバー
チャルリアリティの技術が何処まで進んでいるかというと、今、東京大学で行っているI
ML(インテリジェント・モデリング・ラボラトリー)のケイブという5面立体映像装置が、多分一番だと
思います。このケイブの研究にたどり着くまでには、HMD(ヘッド・マウント・ディスプレイ)であた
かも巨大なドームの中にいるかのようなアウトプットを出すにはどうすればいいかといっ
た研究やソフトウェアの可視化の技術を研究しており、時間軸と構造の両方で3Dの技術
を使っていて、見てリアルに立体になってプログラムの構造が見えるそういう物を作った
わけです。
 そういう方向を見いますとバーチャルリアリティというのは、究極的には今のVR技術
のその最先端が到達している所、これを実際の我々の現世界の中にいろんな形で取り入れ
るというのは、確実に来ると思います。恐らく小規模なケイブのようなものとして、入れ
るテレビが楽しめる、そういった時代が来ると思います。
 そして、マルチメディアというのは、想像もしない方向へ展開する可能性を沢山持って
いると思います。更に、このVR技術というのは、教育効果が物凄く高く、VRで体験す
ると「百見は一VR体験に如かず」で理解できるわけです。それよりもっと重要なのは、
リアルワールドで我々の肉体の全ての感覚器官、全ての頭を動員してもよく分からないも
のが解るという事です。いろんな事についてあるプログラムによって教育ソフト的な物を
作れば、物凄い教育効果があります。
 ですから初歩的な段階というのは、アッという間に進んでくるのが常で、マルチメディ
アの技術を見通す時には、そこまで見ていかなければならないという事です。

5. マルチメディア技術の現状

 現時点のマルチメディア技術から遠い未来を見通した時、現在の地点がどういう位置に
あるか、また、今後どういう事が起こりうるかという話しをしたいと思います。
 今のマルチメディアの方向は、ひとつはコンピューターの延長とテレビの延長の方向が
あります。実はアメリカはコンピューターの延長の方向、つまりコンピューターでテレビ
が見れるようになるという方向でマルチメディア化がどんどん進んでいます。それとは逆
に、テレビ中心のヨーロッパではテレビでコンピューターが出来るという方向に進んでい
ます。特にフランスでは既にデジタルテレビが進行しており、衛星放送用のデジタルテレ
ビを受ける為のセットトップボックスで銀行のカードを読み取り、オンライン決済出来る
ようなものが入っています。ですからマルチメディアの時代がこれからどう展開するか、
その先を読む時に、お金の決済をどうやって各端末で安全に出来るかということが今一番
大きな問題になっているわけです。アメリカと日本の技術の方向は、そこのところが一体
どうしたらいいのかまだ合意が得られていないのが状況です。
 日本のマルチメディアの技術開発はいろんな方向に展開していますが、いろんな面で満
足度が非常に低いというのが実情です。先端技術というのはどうしても初期投資が必要な
わけですが、その初期投資をユーザーに全部負担を押しつけて商売はなりっこないわけで
す。これは経済の原則で、ユーザーが支払うものに対するユーザーの心理的満足度がどれ
だけ得られるか、そのバランスによって失敗、成功が出てくると思います。しかし、今、
目の前に非常に巨大なマルチメディアがらみのビジネスチャンスが広がっているというこ
とは間違いない所です。

6.マルチメディアの展望

 広い意味でマルチメディアの可能性をどう見ていくかということを話しします。
世界史的な規模の技術転換の中で、まず農業革命が起こり、その後産業革命が起きました
が、人類史的に数百年という単位でその社会の根本的な構造を変化させるような新しい変
化として、この情報社会は根底的に社会を変える動きであると思います。
 農業革命は人間が管理して食料を採るという食料生産にかかる技術でした。そこで生理
的欲求が、更なる技術の発展の制限要因となったわけです。産業革命では物財、則ち、消
費財と資本財、或いはその中でも特に必要性がある必需品の生産で始まっています。しか
し、それだけでは収まらず経済のシステムとして、今度は企業社会が生まれてくるわけで
す。これを広告・宣伝・セールスあらゆる物を使って、消費者の欲望をかき立てるという
方向でどんどん拡大してきたわけです。しかし、それがどうも飽和状態になってきたとい
うのが最近の状況で、経済が停滞気味になるというのは、大体欲求の飽和状態と期を一に
する所がある訳です。
 この情報社会も前半は、産業社会を引っ張って来た欲望の原理できたわけですが、後半
はインターネットで一つのサイバースペースというものが生まれ、情報空間そのものが生
活空間、ビジネス空間になっているという人間がどんどん出て来たわけです。
 つまり、かつての産業社会では物理的空間で経済活動やいろんな活動を行っていたわけ
ですが、インターネットが登場した時から、情報財そのものが情報空間の中で生産、取引、
消費が行われる時代になったわけです。このインターネットが作った新しいサイバースペ
ースの中で、一つの巨大な経済行為が大きな規模で行われていくというのは、正に新大陸
発見に比肩するような大きな事なわけです。物理的な物に関しては、物理空間がどうして
も量的拡大の制限要因になるわけですが、情報財の方は、インターネットはじめ今の情報
機器が作り出したサイバースペースというものは、まだまだどんどん広げていくことが出
来る可能性を持っています。
 米国の右肩上がりの経済要素には、産業の相当部分を情報社会化したという事にあると
思います。要するに経済の主軸が物財の生産から情報財の生産、消費、流通に移った事が
典型的にそれを示しています。世界の産業全体が情報社会の経済になってきており、もは
や自動車産業はかつての輸送の機械づくりではなく、情報産業の一貫として数えられるの
はそう遠くない時期に来ると思いますし、経済構造そのものが劇的に変わる時代が来ると
思います。
 そうすると情報化社会の中で使われる有限な資源とは何かというと、一番は時間です。
これからは消費者が持ってる可処分時間をどれだけどのメディアが獲得するかという可処
分時間の奪い合いという形で、これからの経済社会は展開するであろうと思われます。
その場合、消費者は時間当たりの情報の濃密度に価値を見い出し、情報化社会の展開とし
ては、恐らくVR化、マルチメディア化という方向に行くだろうと思います。
 また、情報化社会の前半では、ハードやネットワークといったインフラストラクチャー
が問題になりましたが、後半ではコンテンツがより大きな価値を生み出し、経済の中心に
なっていくという時代になりつつあります。その方向で一番問題なのが、より濃密で価値
があるコンテンツを作り出せるかどうかという所にあるわけです。


社会の変化、大切なこと



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